1)味覚器形成のしくみ
味は、口内の粘膜にある味蕾で感じられます(右写真、色の薄い洋梨状の部分)。味蕾は、大きさが0.1mm程度で100個ぐらいの細胞で構成され、常に古い細胞が死んで新しい細胞に入れ替わっています。また、味蕾周囲の細胞も同様に入れ替わります。それにもかかわらず、味蕾はいつも同じ形状を保っています。また、味蕾とつながる神経は、味を感じる味蕾の細胞(味細胞)が入れ替わる度に、結合を作り直します。味細胞は、甘?旨?苦?酸?塩味の主に1種類に反応するので、味細胞が入れ替わるたびに、神経は適切な味細胞を識別して結合する必要があります。私の研究室では、どのようなしくみで味蕾がその形状や神経との結合を維持しているのか遺伝子改変マウスや電子顕微鏡(左写真)などを用いて研究しています。また、栄養不足や薬の副作用で味覚障害が生じるしくみについても研究しています。
2)チアミン(ビタミンB1)欠乏により生じるの脳組織障害の発症機構
チアミンの欠乏は脚気とWernicke-Korsakoff症候群という2つの欠乏症を引き起こします。なぜ1つのビタミンの欠乏が2つの異なる欠乏症を引き起こすのでしょうか?また、かっては日本の国民病と言われた脚気はあまり一般的ではなくなりましたが、アルコール依存症のヒトを中心にWernicke-Korsakoff症候群はときどきみられます。西欧諸国では、病理解剖所見からWernicke-Korsakoff症候群の有病率は0.1~2.8%と報告されており、おそらくは生前に診断されることなく、見逃されているのではないかと考えられています。日本でも、Wernicke-Korsakoff症候群による脳障害を起こしているヒトは診断されずにたくさんいる可能性があります。Wernicke-Korsakoff症候群がなぜアルコール依存症患者に多いのか、よくわかっていません。私達はチアミン欠乏モデルマウスを利用して、Wernicke-Korsakoff症候群の脳障害の発症機構を研究しています。チアミン欠乏モデルマウスは1970年代に開発されたのですが、私達は再度持ちアミン欠乏モデルマウスの脳組織障害を調べ直して、嗅神経の入ってくる嗅球という脳の部位が、チアミン欠乏に対して極めて感受性が高いことを発見しました。ヒトとマウスとでは傷害を受ける部位が若干異なっていますので、ヒトでも同様なのかわかっていませんが、チアミン欠乏によりヒトでも嗅球が傷害され、嗅覚に異常が生じている可能性があります。
3)刺胞動物モデル生物を用いた進化神経生物学