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研究内容
   当研究室では環境に調和した高分子材料を創製する研究を行っています


1.はじめに
 20 世紀の科学技術の進展によって、我々の生活は随分便利で快適なものになりました。それを支えてきたひとつに、プラスチックがあります。プラスチックは様々な形に成型でき、軽くて丈夫、しかも腐ったりする心配もなく、非常に便利な材料です。しかし、これらの特徴は、使用後の処理という点から見ると、一転、厄 介物になってしまいます。かさばるために大量に運搬するのが面倒な上、腐らないために、埋め立てても半永久的に残存してしまうのです。現在では多くのプラ スチックは焼却処理がなされていますが、運搬や焼却に要する環境負荷を見過ごすわけにはいかないと思います。
 プラスチックは今の調子で作り続けられるとは限りません。原料が石油などのいわゆる化石燃料だからです。長い年月をかけて出来た化石燃料を、人類はとり わけここ数十年の間で随分使ってしまいました。色々な説がありますが、今の調子で使い続けると石油はあと数十年で枯渇するだろうともいわれています。
 振り返れば、20世紀はプラスチックに象徴されるように、「大量生産、大量消費」の時代でした。そのおかげで我々は豊かな生活がすごせるようになったのですが、このようなライフスタイルはいずれどこかで行き詰まってしまうのではないかと懸念されます。
 そこで、様々な取り組みが活発になされるようになってきました。いわゆる「3R(Reduce、Reuse、Recycle)」は代表的なものといえる でしょう。また、「腐る」プラスチックの研究開発も盛んです。ポリ乳酸に代表され、一般的には「生分解性プラスチック」、「グリーンプラスチック」と呼ばれています。ポリ乳酸は、いわゆるコンポスト処理などによって分解し、また、トウモロコシなどから得られるデンプンを原料としているので、脱化石燃料の材料としても注目されています。既 に生ごみ用の袋などに実用化されており、最近ではパソコンや携帯電話の筐体にも使われはじめています。まだポリエチレンなどの既存のプラスチックと比較すると高価ですが、着実に使用量が拡大するものと期待されています。 


2.現在の研究テーマ  
(1)生分解性を有する高吸水性樹脂の創製

 私たちの研究室は、21世紀のテーマである、「環境との共生」、「持続可能な社会の形成」に、環境に調和した生活材料を創製することで貢献したいと願っています。現在、当研究室では、紙おむつなどに使われている「高吸水性樹脂」に着目し、天然物を原料にして、生分解性を有するものを創製する研究を行っています。現在の高吸水性樹脂は上記プラスチックと同様の状況にあるといえます。すなわち、石油を原料にして合成され、使用後は多量の水分を含んでいるにも かかわらず、多くの場合焼却処理がなされています。そこで、身近な天然物を原料として、生分解性を有する高吸水性樹脂を作ることが出来れば、脱石油、ごみ削減の両面から有用であると期待されます(勿論、紙おむつ全体を埋め立て可能にするためには、高吸水性樹脂以外の構成物も併せて生分解性にする必要があり ます)。


これまでの研究で明らかになった具体例を以下に示します。
a.綿を原料とした高吸水性樹脂の創製
 綿は、下着やジーンズ、タオルなどの原料で、我々の日常生活になくてはならないものです。綿は全世界で年間約2000万トンもの膨大な量が作られていま す。この身近な植物資源を原料にして種々検討を加えたところ、現行の高吸水性樹脂に匹敵する高い吸水性能を有する高吸水性樹脂を得ることに成功しました。
 より具体的には、まず、綿セルロースと無水コハク酸をエステル化反応し、モノカルボン酸を生成させた後、水酸化ナトリウムで処理をします。興味深いこと に、エステル化反応の際に、促進剤として4-ジメチルアミノピリジン(DMAP)を用いると、反応系がゲル化する現象に遭遇しました。生成したモノカルボ ン酸の一部がさらに反応し、ジエステルとなって架橋反応していると考えられます。つまり、高吸水性樹脂を得るのに必要な、吸水性発現基の導入と架橋構造の 形成が並行して進行するという、好都合な反応が進行していると推定されます。生成物は、比較的ゆっくり吸水し、純水中で自重の約400倍、生理食塩水 (0.9重量%のNaClを含んだ水)中では約100倍という高い吸水性能を示しました。また、下水処理場から入手した活性汚泥中で生分解性を評価したところ、未処理のセルロースと同等の良好な生分解性を有することが明らかになりました。さらには、種々の綿花や使い古したジーンズ、Tシャツ、タオル、布団綿などからも同様の手法によって高吸水性樹脂が得られることがわかりました。



(写真の説明)綿から得た高吸水性樹脂の吸水特性を評価している様子
左側:ナイロン製ティーバッグに試料(0.2g)をいれて、吸水させたもの
右側:試料なしのティーバッグ


b.キチン、デンプンなどの多糖類を原料とした高吸水性樹脂の創製
 キチンはカニやエビの甲羅に含まれる多糖類であり、セルロースに次いで豊富に存在する多糖類であるとされています。しかし、有効利用はセルロースほど活発ではありません。また、デンプンは米、麦、イモ、トウモロコシなどに含まれ、私たちの食料として貴重なものですが、セルロースに非常に似た化学構造を有しています。上記と同様の処方をキチンやデンプンに施したところ、セルロースと比較するとやや劣るものの、やはり高吸水性樹脂が得られることがわかりました。他にもカンテンやコンニャクの成分であるグルコマンナン、グアーガムなどから高吸水性樹脂を得る検討を進めています。
 
(2)博多湾に大量発生するアオサを原料とした機能性材料の創製
 博多湾東部の和白干潟は渡り鳥の重要な飛来地として知られています。しかし、毎年夏になると海藻のアオサが大量に発生し、景観を損ねるほか、生態系への悪影響が懸念されています。福岡市は専用回収船を用いてアオサを回収する作業を行っています。回収されたアオサは現在のところこれといった用途がないために、埋め立てや焼却による廃棄処分がなされています。せっかく回収した天然物ですので、有効活用することが望まれます。そこで、アオサから各種生活関連材料を創り出す検討を行っています。
 最近の洗剤の中には、植物由来で生分解性の良好な界面活性剤が用いられているものがあります。しかし多くの場合、原料は東南アジアのパームヤシであり、日本で使用するためには遠方からの輸送が必要です。これは輸送コスト、すなわち石油が低価格であったこれまではさほど問題になりませんでしたが、最近の石油価格高騰を持ち出すまでもなく、今後もそのような状態が継続するかについては疑問が残ります。一方、身近な天然資源を有効活用して洗剤を作ることができれば、輸送コストを気にする必要はなくなり、地域での物資部循環が可能となります。また、生活資材の「地産地消」が成立し、大変好ましいといえます。


 海藻のヌルヌル成分は一般に細胞間粘物質といわれるものであり、アオサからも熱水抽出によって得ることができます。これを化学変性することで界面活性剤を得る検討を行ったところ、既存の界面活性剤と同等以上の性能を有するものが得られました。現在、さらに高性能ものを得る検討や、より簡便な変性方法の検討を進めています。他にも和紙、プラスチックなどを得る検討を進めています。